「福山型筋ジストロフィーの摂食嚥下機能障害について」
      心身障害児総合医療療育センター 小児科医師 村山 恵子

 誤嚥性肺炎、窒息、痰詰まりが命にかかわることはよく御存知だと思います。福山型の患者様にはこういうことの経験者が非常に多いので、本日は、福山型の摂食嚥下呼吸機能障害の特徴と対処法をお話ししていきたいと思います。
 先ほど埜中先生からお話がありましたように、福山型の特徴として筋肉だけの病気ではない、脳の形成異常というのもあり、かなり重いというお話でした。食べたり飲んだりということを考えるときに知的障害の問題が、かなり大きな要素を占めます。つまり自覚症状が訴えられないし、自分で気をつけることが出来ない。そうするとまわりが気をつけてあげる必要があるわけです。更に、それだけではなくて、呼吸、循環、嚥下に関わる脳幹部の病変も多く、突然死の方がいらっしゃるということもあります。筋力の低下についても、同じ筋ジスでもデュシェンヌ型とは大きく異なって、乳幼児期からの筋力低下がある。それも顔面と頸部の筋力低下であり、これはもちろん食べることに関わる。あと小さいときから筋肉が非常に弱いということで胸郭や脊柱が出来上がらない、体格の出来上がる前の筋力低下だということを金子先生が後ほどお話下さいます。筋力の低下ということだけではなくて知的な問題、それから脳そのものの問題ということもあって、体の変形も強い。自分では嚥下障害が理解出来ないから「僕はこれが食べたい。」というと、危ないからといってもわかりにくい。そういうことがあって誤嚥、窒息につながっていく。これだけはよく知っていただきたいと思います。可愛いお子様が誤嚥とか窒息であっという間に亡くなってしまうということを避けるためにはこんな方法があるということをちょっと見ていただくのが、本日の目的です。
 
摂食嚥下機能障害があるだろうかということを疑う症状を説明します。誰でも食べているときに、むせたりすると、うまく飲み込めてないのではないかと思います。でもそれだけではなくて、食事の量が少ないとか、時間がかかるとか、食事の形による好き嫌いがある。といったことも摂食嚥下機能障害の症状です。また、食べ物を見ただけでは食べ物かどうか分からないという重度の知的障害というのも嚥下機能障害の大きな悪化要素です。全身状態としては、体重が増えないということだけではなく、しばしば熱を出す、という事も大切です。誤嚥性肺炎をよく起こしているといわれている方はすぐわかると思いますが、ぱっと熱が出てすぐ下がってしまうことを何度も何度も繰り返す、という事だけが誤嚥の症状だという場合も多いのです。実は、私たち健康な人間でも寝ている間に唾液を誤嚥しています。それを、自分で肺から出せていれば何も起きません。自分で肺から出せる許容範囲を超えている場合のサインとして、熱が出てすぐ下がるということだけを繰り返すということも出てくる。こんな症状が、誤嚥のサインだということを分かっていただければと思います。 
 運動機能障害と摂食嚥下機能障害の関係を、私たちのセンター(心身障害児総合医療療育センター)に来て下さっている17人の福山型の方々について調べてみました。床に自分で座っていられるかどうかで分類すると、自力で床に座っていられるお子様の中には全然呼吸器や摂食嚥下機能の障害がないというお子様もいましたが、自力で床に座っていられない方には、全例に何らかの障害がありました。どんなものが見られるかというと、まずあごとか口の機能障害です。唇をきちんと閉じられず、噛み合わせが悪いという事は早くから見られます。噛む力が弱いとか舌が大きい方もいらっしゃいます。それから、あごが外れるということにも注意が必要です。しょっちゅう気持ちが悪くて吐いているうちに口がどんどん開いていって、あごが外れてしまった方がいました。外れてすぐでしたら整復が出来たのに、気づいたときにはもう遅かったという苦い経験もあります。ですからどうも口の開き方が違うという時は、是非早めに口腔外科や歯科の先生に相談して下さい。食べ物が口の中に入ってからの問題としては、上手にのどに送り込めないとか、飲み込んだ後も口の中に食べ物が残っているといった症状も出てきます。「かみかみして」と言って、本人は「かみかみしているよ」と言っているけど実は丸飲みしていることは良く気づかれるでしょう。
 逆に、飲み込む力は弱いのに、奥歯でポテトチップスを噛む力は残っている、ということもあります。ちゃんと噛んでいるので、飲み込みも大丈夫だなと思っていると、実際はそうでない場合があるのです。こうした問題に対しては、小さいときから噛み合せの練習や、あごの運動、食べ物の形態、1回の量、口に運ぶペースなどを工夫します。

 
実際に誤嚥をしたことがある人が、どれ位いるかということでは、誤嚥やのどを詰めた経験が、半分以上にありました。これらの症状を全部合わせると、ほぼ全例に何らかの摂食嚥下機能障害がありました。
 嚥下障害(のみこみの障害)の種類を見るためには、ビデオ嚥下造影検査(VF)というものをします。福山型で一番多いのは、咽頭部という、のどの奥に食べ物が残ってしまうということです。なかでも梨状窩というところに残る事がよく見られ、この場合には、起きた姿勢よりも寝た姿勢の方が食べるのが上手ということがあります。また、固形物がのどの奥に残ってしまうので、水分で流しこんでいることもあります。更に、のどの奥にどうしても食べ物が残ってしまって出し切れない方では、歯磨きのときにお母さんが歯ブラシでかき出す事もあります。もちろん口の中の吸引は。しっかりする必要があります。カフマシンという道具を使いこなせると、もっといいです。
 更に年齢が進行してくると、直径2ミリ位の胃管でも入らないくらい食道の入り口の開きが悪くなってしまうことがあります。何とか食道の中に入っても、そり返りが強くて食道が引き伸ばされると、そこから進まない、内視鏡で見ながら進んでも入れられないということもあります。そうなると、チューブの挿入だけで大変な苦労です。ですから、食べることが難しくなったら、早くから、胃瘻を作る事をお勧めしています。食道の筋肉を開く輪状咽頭筋切除術という手術もあるのですが、福山型のように非常に筋肉が細い方で、良い結果の方がいるかどうかはちょっと分かりません。
 小さいときに自家中毒といって、嘔吐発作をおこす方もよくいらっしゃいます。一方で、福山型では、大きくなってから嘔吐発作を起こす場合があり、胃の障害(急性胃拡張)と言うことがあります。ひどい嘔吐があって、お腹が張るようなときには、レントゲンで確認して、それに対する対処をしないといけません。
 自家中毒の発作は、夜寝ている間に糖分を使い切ってしまい、脂肪を燃やすので、結果としてケトン体が産生され、嘔吐を誘発しやすくなります。夜寝る前に牛乳を一杯飲むとか、ちょっと危ないなと思ったところでポカリスエットをガブガブ飲むことで、吐かずにすんでいる方もいらっしゃいます。また漢方薬も効くことがあります。
(スライド)これが急性胃拡張の写真です。これだけ胃が大きくなって、胃の動きが悪くなってしまっています。この方は、注入をしていても空気があまりにも多くて胃が動かない。だから緊急的に、二本のチューブを入れて、一本から注入をしながら、もう一本から空気を抜くということで、胃瘻までの期間をしのぎました。
 (スライド)年齢が進んでくると食事を見直していかなくてはいけないという経過の例です。この方は最初はいざリが出来たのですが、いざりが出来なくなってきて、段々噛み合わせが悪くなってきた。最初は普通食から一口大に切るようになり、そのうちもっと刻んであげた方がよくなった。その頃に、よく熱を出すようになって肺炎があったということで経管栄養になりました。こうした経過の中で、ご自分の
お子様が、今どういう状態にあるかということを頭に入れておくことが大切だと思います。
 摂食嚥下機能障害の評価についてお話しします。当然、食事場面の観察が第一です。その他、ビデオ嚥下造影検査(VF)、ビデオ内視鏡検査や血液の炎症反応(CRP)、肺のCTなども重要な検査です。VFは、造影剤の入った飲み物や食べ物を飲んで頂いて、のどをどのように動いてゆくかをビデオにとって分析する検査です。普通私たちが食物を飲み込む時は、食べ物が一気にのどを通過し、そのまま食道に入ります。進行した福山型の方では、食べ物を飲み込んでも、1回では飲み込めずに、のどに残っていることがよく見られます。本人は、一生懸命に飲み込んで、後ろの食道に送り込もうとしているのですが、嚥下の力が弱いのでいっぺんに全部飲み込むことが出来ず、のどにたまっているのです。こういう場合には、寝ている姿勢では、重力が手伝ってくれるので、食べ物が後ろの食道に入りやすい。逆に座って食べていると、のどにたまっているものがごっくんとしたときに食道ではなく、前の気管に入ってしまいがちなのです。特に梨状窩という、食道の入り口のわきのにある袋状の隙間に、食物がたまっている方は、座って召し上がっているときに前かがみで背中をたたいたりすると、食物がみんな気管の中に落としこまれてしまいます。この危険があるときには、周囲にきちんと伝えないと命に関わります。以前、病棟でお預かりしていたこのような患者様がむせた時、職員が、何気なく少し前屈みにして背中をトントンと叩いてしまいました。すると、みるみるうちにチアノーゼになり、熱が出て、退院が延期になりました。これだけは覚えていただきたいのですが、梨状窩にものがたまりやすい場合には、むせたときには、座ったまま前かがみにはさせず、横にして吸引をしてください。

 福山型の多くで見られたVFの特徴としては、以下のものがあります。
@のどの奥に食べ物や飲み物がたまりやすい。

A飲み込んでも食道にすぐ入らない。
B気管の方に食べ物や飲み物が侵入してしまう。

 こうした状態になると、よく分かっている方は、気管や喉頭に入ったものを一生懸命出そうとして「あー」と、うがいのような発声をしてみたり、ごほんごほんと咳をして何とか出そうとします。ただ、気管の中に入っていてもすぐにせきこまない人もいるのです。ご飯が終わってしばらくしてから、咳をしているのが、実は誤嚥の結果だったという事があります。長い間誤嚥を繰り返していると、のどの辺の感受性が鈍くなって咳が出にくくなりますし、脳の障害によって咳が弱い場合もあります。ですから、ムセが無いからといって大丈夫とも言えません。また、筋力がとても弱い場合は、寝た姿勢の方が起きた姿勢よりも誤嚥が少ない場合があることも前述の通りです。ですから自分のお子様の飲み込みが、どのような状態かを一緒に確認できるのがVFの強みだと思います。 呼吸障害をひどくしないためには予防に勝ることはありません。福山型では誤嚥のために呼吸が悪くなる場合がとても多いので、常に誤嚥を疑って、検査をし、早めに対処をして頂きたいと思います。呼吸筋力が弱いための障害については、後ほどの金子先生の講義実習で、ひとつでも方法を覚えていってください。肺が真っ白につぶれていた時に、上手な先生に呼吸理学療法をやってもらったら午後には肺に空気が入ってきた。上手な人だとこれくらい出来ます。ただ、いつもそばにいてくれませんので、簡便で確実な方法を身につけることが必要です。
 最後にもう一つ触れておきたいのが呼吸障害が起きたときの非侵襲的呼吸療法(NIPPV)と気管切開法(TIPPV)との比較と、気管咽頭分離術という究極の誤嚥防止術です。
 呼吸が弱くなったときの補助の方法には、鼻マスクや鼻と口をいっぺんに覆うマスクをつけて行う非侵襲的な方法があります。今ではマスクの種類もいろいろありますし、呼吸器の種類も増えました。こうした方法に早くから慣れておき、すぐに使えるようにしておくと、具合が悪くなったときに、大変便利です。ただ、一般に福山型の方はNIPPVへの協力が難しいという問題があります。また、鼻や口のマスクを通して空気を送るために誤嚥を防げません。お腹も張ってしまうという問題があります。そのため、福山型の方で呼吸障害が進んでくると気管切開をした方が安全な場合が多いのですが、最近カフマシンをきっちり併用することで、NIPPVを成功させている例が北海道の方で見られています。私たちのところでも何人か練習をしていただいていますが、カフマシンが高価なのが難点です。
 鼻や口から人工呼吸をする場合(NIPPV)に対して、気管切開孔からやる場合(TIPPV)の違いを簡単に説明します。TIPPVでは、確実に気道確保が出来ることと、顔に何もつけなくていいということが大きな利点です。ただ、手術をしなくてはなりませんし、乾いた空気が直接気管に入ることや、気管カニューレという異物を気管に入れるという欠点があります。福山型の方では、頚部がねじれている事が多く、気管カニューレが壁に当たらないようにするには、普通よりも配慮が必要です。また、単純気管切開では、誤嚥を防ぐことはできません。
 そこで、誤嚥を防止する究極の手術について少しだけ説明しておきます。正常な場合には口から食べ物が入りますと食道にまっすぐ入ります。誤嚥のある方たちというのは、この時に気管にも一緒に入ってしまいます。単純気管切開というのは気道を確保するために気管に穴を開けてカニューレというものを入れます。誤嚥のある方では、カフという風船を膨らませて、気管に唾液などが入らないようにするのですが、どうしても少しは入っています。それに対して、喉頭気管分離術では、気管と食道を喉頭のところで分けてしまうので、食べ物が絶対に肺に入りません。誤嚥を絶対にしないという究極の手術です。普通この手術の時には、喉頭を食道とつなげる喉頭食道吻合という通り道も作りますので、食べ物や唾液は喉頭からも食道に流れ込みます。つまり、誤嚥したものもみんな食道の方に流れ込んできます。また、食道からゲップのように空気を出すことによって発声が出来る(食道発声)場合もあります。私たちは、そういう患者様も一人拝見しており、この手術が、福山型の方のQOL(生活の質)を非常に高める可能性がある手術だと考えています。ただし、通常は、福山型の方に食道発声を覚えて頂くのは難しいので、声が出なくなることは覚悟しなければなりません。簡単に結論が出せることではないのですが、食べる楽しみを確保するには有効な方法だと頭に留めておいてください。
 以上、食べることは楽しくおいしく安全にやりましょう。そのためには十分な栄養摂取を確保する別のルートを持つことも、早くから考えてみましょう、ということを今日の話の主題とさせて頂きました。



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